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浦和地方裁判所 昭和63年(行ウ)1号 判決 1990年7月30日

原告 朝野辰人

被告 埼玉県

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  川口市南平柳区画整理組合(以下「本件組合」という。)が昭和三五年三月三〇日付で別紙物件目録記載の「従前の土地」(以下「本件従前の土地」という。)について同目録記載の「換地」(以下本件換地という。)をもってした換地処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨。

(本案の答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  本件従前の土地は矢作富士枝の所有であったが、原告は昭和三五年二月二〇日、同人からこれを買い受けた。

2  本件従前の土地は本件組合が施行する土地区画整理事業の対象区域に含まれていたところ、本件組合により、昭和三五年三月三〇日、本件換地をその換地とする旨の処分(以下「本件換地処分」という。)がされ、昭和三六年二月九日その旨の登記が経由された。

3  しかしながら、本件換地は、一方的に必要以上の減歩がされたうえ、公道に面しておらず、公道に通じる通路もない袋地である。土地区画整理事業は、本来土地の有効利用を目的としているものであるから、換地処分によって本件換地のような袋地を作出すことはその目的に反し、換地処分の無効を招来するというべきである。

4  本件組合は昭和一五年五月一三日に設立され、同三八年一二月一二日に解散した。被告は本件組合の設立及び解散の双方について認可をしており、したがって、解散後の本件組合の事務は被告に帰属したのである。

よって、原告は被告に対し、本件換地処分の無効確認を求める。

二  被告の答弁

(本案前の主張)

1 原告は、本件換地処分につきその無効確認を求める法律上の利益を有しない。

原告は、本件換地処分後である昭和三七年一〇月八日になって初めて、本件換地につき農地法第五条の規定による許可を条件とする同月六日付の売買による所有権移転の仮登記をし、昭和四八年五月二一日付で農地法第五条第一項第三号の規定による届出をし受理されたが、いまなお、所有権移転の本登記手続をしていない。仮に原告主張のように、原告が昭和三五年二月二〇日、矢作富士枝との間で本件従前の土地につき売買契約をしたとしても、本件従前の土地は農地であるから、農地法第五条の規定による許可を受けなければその所有権を取得することはできないのである。したがって、原告は、本件換地処分当時、本件従前の土地につき所有権を有していたということはできない。また、ほかに、当時、原告が登記によって公示された権利を有していた事実もない。そのため本件換地処分は矢作富士枝に対してされたものであり、原告はその無効確認を求める法律上の利益を有しない。

2 本件換地処分の無効確認を求める訴えは国を被告とすべきであって、埼玉県はその被告適格を有しない。

本件換地処分は当時効力を有していた、都市計画法(大正八年四月五日法律第三六号、以下「旧都市計画法」という。)第一二条によって準用される耕地整理法(明治四二年四月一三日法律第三〇号、以下「旧耕地整理法」という。)第三〇条に基づいてされたものであるが、旧耕地整理法第八二条によると、耕地整理事業は第一次的には都道府県知事が、第二次的には主務大臣がこれを監督する旨定められている。しかしながら、同法第八三条によると、主務大臣又は都道府県知事は、土地区画整理事業の施行者の行為が設計書、規約又は法令に違反しその他公益を害する恐れがあるときは、事業の停止、事業施行の認可の取消し等もできるとされている。とすると、同法第八二条の規定による都道府県知事の監督とは地方公共団体の代表者としてのそれではなく、国の機関としての監督の趣旨であって、右に「第一次的」というのは、都道府県知事が直接の監督をするという趣旨であり、主務大臣による「第二次的」な監督とは最終的な監督の権限が主務大臣にあるという趣旨であると解される。してみると、土地区画整理事業に関する事務は本来的に国の事務に属するとみるべきであり、したがって、土地区画整理組合が解散しその法人格が消滅した後においては、土地区画整理事業の事務の帰属するところは国であるということになる。

そして、行政事件訴訟法第三八条第一項において準用する同法第一一条によれば、無効等確認の訴えは、被告とすべき行政庁がない場合には当該処分等にかかる事務の帰属する国又は公共団体を被告として提起しなければならないことが定められているのであるから、本件換地処分の無効確認請求の訴えは国を被告として提起すべきであって、埼玉県は本件訴えにつき被告適格を有しない。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1の事実は否認する。

前記のとおり、本件従前の土地については原告による所有権取得の登記はなく、昭和三七年一〇月八日になって初めて、本件換地につき同月六日付の所有権移転の仮登記がされたものである。

2 同2の事実は認める。

3 同3の主張は争う。

一般に、換地処分が無効となるのは、これに重大かつ明白な瑕疵あり、その瑕疵のため、換地処分の内容に適合する法律効果が始めから全く生じないというような場合である。例えば、その換地処分では、換地の位置及び範囲が特定されず、登記簿に換地についての記載はあるが、それがどこであるか、位置及び範囲が特定していない場合がこれにあたる。しかしながら、本件換地処分においては、換地の位置及び範囲は特定しており、右のような場合には当らない。本件のように、袋地が換地として指定されたような場合は、換地処分の取消事由になったり、囲繞地通行権の成否の問題が生じたりすることはありえても、換地処分の無効の問題は生じない。

4 同4の本件組合の設立及び解散の事実は認めるが、その余は争う。

第三証拠<省略>

理由

まず、本件訴えにつき埼玉県が被告適格を有するかどうかについて検討する。

土地区画整理組合は土地区画整理事業を行うことを目的として設立される公法人であって、土地区画整理事業の施行権を与えられ、土地の強制交換を内容とする換地処分等の行政処分を行う、独立の権利主体である。本件換地処分は本件組合が自ら公権力行使の主体として行ったものであり、その無効確認請求の訴えについて、本来、本件組合とは別個の権利主体である埼玉県が被告適格を有するものでないことは明らかである。

原告は、本件組合が本件換地処分後事業の目的が完成したとして解散し、精算結了により、その法人格は消滅したので、本件組合の事務は組合に対して各種の監督権を有していた埼玉県に帰属したから、埼玉県は本件換地処分無効確認請求の訴えにつき被告適格を有すると主張する。しかしながら、土地区画整理組合が解散し精算が結了した場合、その事務が都道府県に帰属すると解すべき法律上の根拠はなく、かえって土地区画整理組合が解散したときは、組合が精算をすべきものと定められているのであり(旧都市計画法第一二条、旧耕地整理法第六〇条)、その精算期間中、組合は精算の目的の範囲内で存続し、組合に属する一切の事務の処理が完了して初めて組合は消滅するのであって、組合に属する事務の処理が未了である限り、たとえ組合が精算を結了したと称し、その旨の届出をしたとしても組合は消滅しないのである。

してみると、本件換地処分が無効であるとすれば、その範囲で本件組合の事務処理は終了していないのであるから、本件組合の法人格もその範囲で存続し、本件換地処分による権利義務関係はなお本件組合に帰属しているというべきである。

よって、原告の本件訴えは被告適格を欠く者を相手方とする不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚一郎 小林敬子 西郷雅彦)

別紙物件目録<省略>

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